"自分が作る動画というのは、その演奏の瞬間を切り取ったようなものです。"
「ライブ感」を大事にしているクリエイター、ねるどらさん。話題作、MikuMikuDanceを使用したPV「glow」について、その背景も含めて語っていただきました。
はじめまして。まずはプロフィールのご紹介をお願い致します。
はじめまして、ねるどらと申します。
ニコニコ動画ではMikuMikuDance[1]を使ったバンドPV等を制作しております。
特徴的なお名前ですが由来について教えてください。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、派生キャラ「亞北ネル[2]」が「ドラムを叩く」という動画を投稿していたところが由来となります。 「ネル」+「ドラ(ム)」。最初ニコニコ動画では別のHNを使っていたのですが、特徴的、且つ、覚えやすい名前なので今はこちらの名前で活動しております。 ひらがなになったのはなんとなくです。
よく「何故ネルなのですか?」と聞かれるのですが、実は「MikuMikuDanceで読み込んだキャラクターがたまたまネルだった」というだけでして… 今では自分の分身のようなものになっています。個人的にネルは色々なキャラクターの中で最も「人間くさい設定」のように感じていてお気に入りです。 ツンデレだったり時給700円だったり。時給は関係ないか・・・
ちょっと話がずれますが、よく「ミクや、リン・レンではだめなのか」「バンドメンバーが何故派生キャラが多いのか」といわれるのですが、 ミクやリン・レン、ルカは「声」を持っているけれども、派生キャラは声を持っていません。なので、「声がなければ楽器演奏で出演させればいい」と思っています。 自分はボカロキャラでも派生キャラでも関係なくキャラクター達そのものが好きです。その中でも何故か派生キャラが妙に好きだったりします。
映像や音楽への関わりは以前からありましたか?
楽器演奏を10年やっていました。名前の由来となっているドラムですね。 なので音楽そのものには結構濃く付き合っていると思います。 ここ最近は楽器に触ることすら結構ご無沙汰になっていますが・・・
映像については、ちょうど楽器を始めたころと同じ頃に「ショートムービーのようなものを作ってみたいなあ」なんて思った時期はありましたが、 その頃はまだCGが手軽ではないうえに、実写撮影となると機材やらなにやらいろいろな制約があったのであきらめていました。 ただ漠然と興味だけは心の中に残ったままずっと楽器ばっかりをやってきました。
そんな中で出会ったのがMMDでした。3DCGが自分のPCで手軽に、且つ動画を作ることもできる、ということで盆と正月が同時に来たようでした。 そのため、MMD使用歴=動画制作歴となっています。
MikuMikuDanceで映像作品を作ろうと思った
きっかけはなんでしたか?
Mikumikudance(以下MMD)を始めた頃は、「映像作品を作ろう」というつもりはさっぱりなく、「MMDでキャラを動かした成果」をそのまま動画にしていただけでした。 最初の頃は本当にキャラを動かすだけで精一杯だったのですが、「真っ白背景ではさすがに面白くない、とりあえずステージを置いて雰囲気だけでも変えよう」ということはしていました。
そんなことをしている時、ちょうど「第4回MMD杯」の本選が開催されていて、そこで見たcort氏のMMD-PV「I sing for you」を見て 「MMD-Band Edition」というものに傾倒していくようになりました。自分が影響を受けた作品のひとつです。あの作品がなかったらここまでやっていなかったと思います。
最初はドラムのモーションを作っていただけだったのですが、次第にベースやギターといった他の楽器パートも作って、最終的にはフルバンドで動いているところが見たくなり、 そんな中で生まれたのが第5回MMD杯の 「【MMD】Ding-Dong【PV】」でした。そのあたりから「作品」という意識が生まれ始めました。
より「作品」としての意識を強くしていくきっかけになったのが「MikuMikuEffect」の登場でした。質感や照明等の表現が大きく変わったことで、自分のやりたいことができるようになってきたことです。
作品を作る上でねるどらさんが
大事にしている点を教えてください。
1)「原曲ありき」。PVという以上はその曲の良さ、らしさ等が壊れないように、且つ、よりその曲が引き立つようなものにすること。「PV」と謳う以上そこは最優先事項です。
2)演奏系PVということで、「まるでその場で音が鳴っているかのような映像」にすること。空気感みたいなものを表現したいなと。 これは個人的な考えですが、音楽ともっともシンクロする映像というのは「楽器演奏シーン」だと思ってます。
3)キャラが生き生きしていること。これはリアリティある動きやアニメ的な動き問わずですが。やはりキャラが生き生きしていると見てても作ってても楽しいですし。
技術面についてはどのように学ばれたのでしょうか?
基本的には独学+αです。「かっこよく、且つ、変じゃなければそれでよし」みたいなスタンスでいつも作ってます。 αというのは、いろんな作品で見れる演出の仕方や、MMDの講座からかいつまんだりしたものですね。人の手法を取り込みつつ自分なりに消化していく、といった形で。
キャラを動かすための技術についてはMMDを始めた頃からの積み重ねになってます。 かなり長い内容になるので割愛させて頂きますが、キャラを動かしていくうちに「これこういう風にしたらうまくいくんじゃ?」みたいな思い付きの積み重ねですね。
カメラのカット割りについては「流れ重視」です。自分はカメラやカット割りは最後の方に作ります。 まずはキャラが動いているところでカメラをグルングルン回して、その中でいい映り方を見つけたり、カットごとにいい流れを見つけたり、という方法をとってます。 実はカメラをつけているときが一番楽しいです。
おそらく「動画の作り方」という部分で言えばいまだド素人レベルではあると思います。編集の仕方等はいまだに苦労しますね・・・
動画「glow」制作のコンセプトを教えてください。
題にもなっている「glow=赤」と、「grow=成長」です。そして「時間」。 歌詞の中で「気づかないうちに大人になって」とあるのですが、動画内のミクは自分の中では18歳あたりの設定です(起用モデルも「あにまさ式18歳ミク」)。 時間とともに心も体も成長していくことに、戸惑い苦悩するミクを描ければいいなと。そこのあたりは歌詞に準じてミクを演じさせてみました。演じきれたでしょうか?w
ミクの公式設定は16歳ですが、今回は18歳。たった2年かもしれませんが、その年頃の女の子って2年で劇的に変化しますよね。そういう部分を出してみたかったというか。 glowに限らずなんですが、自分の中ではキャラクターたちは成長してほしいんです。ただ年とるだけじゃなく、人間くさく。あれこれ知識を得て、考えて、苦悩して。 ミク4周年記念、もし実際に年を重ね、今19歳くらいであったらどんな女性に成長しているか。そういうことを考えるのも楽しいかなと。
あと、実際にありそうなバンドのPVっぽさと、ちょっと古い映画みたいな質感を目指しました。 バンド感よりも歌い手重視のカット割りなどになっています。主人公がミクで、メンバーは準主役だったり脇役だったり。
制作期間はどれくらいでしたか?
モデルを動かすための改造は日ごろから行っていたので、それ以外を省くとおよそ3ヶ月強となります。 MMD動画ではキャラクターのモーションがもっとも時間がかかる上、5人中4人は1回作り直しをしています。 モーションが作り終わればあとは早いので、エフェクト等の演出自体はそこまで時間はかかりませんでした。 自分の作品は大体いつも数ヶ月ほど時間がかかる上、準備期間も長いのであまり数多く作品を出せないのがネックですね。
起用モデルはどのように決められたのでしょうか?
自分が作る動画のモデルは基本的にあにまささん(MMD付属のモデル製作者)のモデルしか使わないのですが、そのキャラクターそれぞれが既にパートが決まっています。 たとえば同じギターでも、KAITOはロック寄りな荒っぽい感じのギタリスト、一方本音デルはJAZZっぽいテイストが得意そうなギタリスト、という感じにキャラ付けをしています。 あにまささんのモデルで統一している理由は「空気感の統一」と「一目でMMDとわかるから」ですね。
メインのミクについては、AppendDark[3]の声のイメージに合うようなモデルにしました。Darkのちょっと大人びた、どこか陰のある声の雰囲気には、先述の「あにまさ式18歳ミク」以外にいないと思って起用しました。 実際にはモデルそのものもかなり改造してあります。指をきれいに見せるために整えたり、少しお化粧をしてライト当てたときに綺麗に見えるようにしたり顔立ち整えたり、衣装コーディネイトしたり・・・。 モデルの衣装コーディネイトの時間はカメラの次に楽しい時間です。
滑らかでリアルな演奏シーンは
どのように作られたのでしょうか?
すべて動きは手打ち(腕や体のボーンといわれる可動する部分を、1個1個角度を変えてキーを打って動かしていく)です。 動きの元となった映像そのものはないのですが、自分が今まで一緒に演奏してきた人たちの動きを想像しながら、「こんな感じかな?」と実験しながら作っています。かなり根気のいる作業になります。 唯一ネルのドラムモーションについてはほとんど自分のドラムの叩き方そのものです。自分の演奏しているところを知っている人からしたら「そのまんまだねw」とよく言われますw 実際動きをつけるときは、うまくいかないときは腕の一振りだけで1~2週間試行錯誤したりします。
DVD「初音ミクVision[4]」への収録が決まったことについては
どんなふうに受け止めていらっしゃいますか?
素直に嬉しかったです。ただ反面「自分の作品なんかでいいのか?」という疑問もありました。自分自身動画制作スキルなんてほとんど持ち合わせていないし、 まだ制作を始めて1年半程度での作品がその作品群に並んでよいものか、と。でもまたとない機会でもあるのでよい経験になったと思います。 あと、「MMDとMME(MikuMikuEffect)だけの映像でもここに並ぶことができる」という例を出せたのではないかなと思ってます。
動画を作ってよかったと思うことはどんなことですか?
何か作品を作るということはいろいろ面倒くさいこともありますし、手間もかかりますが・・・・ やはり自分の作品をみて「楽しかった」と言ってくれることですね。 あと、「いろんな人と知り合うことができた」ことでしょうか。こっちの部分のほうが大きいです。 動画作らなかったら知り合うことは一生なかったような人たちと会うことができた、と思ってます。
それと、自分の作品を見てくれた人が、自分の動画をきっかけに何かを生み出すといった連鎖が非常に楽しいと思います。 そういった「創作の連鎖」という事象が楽しいですね。
今ねるどらさんが気になっている作風はありますか?
作風を具体的に挙げるとなると難しいですね。気になったものはとにかく追いかける主義ですのでw 一つ例を挙げるとしたら、@まさたかさんの動画のような、表現手法です。 具体的にどこが・・・といわれると悩んでしまいます。曲・音・リズム・歌詞等へのアプローチの仕方が自分とは正反対というか・・・ ・・・なんていえば良いか分からないですねw 感覚的なものかもしれません。
手書きのPVでも、実写のPVでも、はたまたPVでないものでも、気になるものについては「何かしら自分に取り込めないものか」って考えてたりします。 まぁほとんど取り込めてないのが現実なのですがw
しばらくの間は今の芸風(バンドもの)での制作となると思います。バンドではないいろんな表現方法をやってみたいなと思いつつも後の楽しみにとっておきます。 その前に今の表現方法を突き詰めることですね。
今後はどのような活動をご予定でしょうか。
個人的な願望としては、自分が作ったPVを集めてひとつの形にしたいなというのがあります。作品集というやつですね。そこでいったん一区切りつけようかと。 その後はちょっと違う形で自己表現していけたらと思ってます。それが映像なのか、はたまた音楽か、絵か、そのときにならないとわかりませんが。 それともうひとつは、MMDの講座のようなものをもっとやりたい、そして、もっとMMDバンド映像をいろいろな人が作れるような展開をしていきたいです。
直近では、先述の【MMD】Ding-Dong【PV】のフルリメイク版を制作中です。これもまた時間がかかるものですが、楽しみに待っていてくれたらと思います。 1年前よりももっと濃厚な映像になるかと思います。
最後に皆様へメッセージをお願い致します。
MMDをこれから始めようと思っている方へ キャラを動かすのは大変ですが、怖がらずに、「楽しみ」ましょう。MMDは楽しんだもの勝ちです。 地道な作業ですが、費やした苦労の分だけキャラ達は応えてくれます。
それともうひとつ ただいま第7回MMD杯がニコニコ動画で開催されています(8/19(金)より本選開始)。 MikuMikuDanceを使った動画の祭典、歌ありダンスあり、笑いありアクションあり。みんなで盛り上げていきましょう。よろしくお願いいたします。
ありがとうございました!!